Quantcast
Channel: 『甘噛み^^ 天才バカ板!』 byミッドナイト・蘭
Viewing all articles
Browse latest Browse all 3482

[映画『風立ちぬ』を観た(前篇)]

$
0
0
☆・・・いやぁ、風が立ちまくっていました!!!

 たいがい 宮崎駿監督の独りよがりの作品に思え、批判する準備をしていたのだが、あまりの傑作に驚いた。

 取り急ぎ、幾つかのことについて言及しておく。

 なんか、マッチョ好きのホモの映画評論家気取りが、この作品の、例えば、宮崎監督の、「飛行(戦闘)機好きの戦争嫌い」に代表される矛盾について指摘して、悦に浸っていたが、

 宮崎監督は、その矛盾との、大人としての共生はとうに克服していよう。

 私は、20年ほど前、やたらと宮崎監督を批判しまくっていた。

 それは、宮崎監督への、共産主義者の高畑勲監督の影響を、私が感じていたからだ。

 いや、高畑監督の政治思想などは、後から分かったことで、ただ、私は「言い知れぬ嫌悪感」を抱いていたのだ。

 高畑作品は嫌いじゃないし(次作も相変わらず実験的な野心作のようだ)、宮崎監督の高畑影響下の作品も嫌いじゃないから、私こそが、その矛盾に苛まれ、宮崎作品を批判していたきらいがある。

 だが、宮崎監督は、徐々に高畑呪縛から抜け出てきて、近年、思想に束縛されない作品作りをしている。

 ただ、近年は、エコに囚われている気配はある^^;

 だから、今さら、マッチョ好きのホモの映画評論家気取りが、「矛盾」について言及しているのは、・・・はぁ、シラける。

 パンフレットでも、立花隆やプロデューサーの鈴木敏夫が「古いこと」を語っているのにも、シラけた。

 また、共産主義の呪縛を抜け、

 無理やりなエコロジーも、作品によっては消せていた宮崎作品だが、

 もう一つ、問題があった。

 それは、物語が、フランシス・F・コッポラなみに、スキゾフレニーの症状である「過剰な支離滅裂さ」と共にあった。

 これについても、何度も語っているので、ここでは書かないが、「アリエッティ」の脚本を書いた頃から、治癒していったのかも^^;

 「風立ちぬ」においては、完璧な「一つのテーマの脚本世界」を構築している。

 昨今の宮崎演出だったら、主人公・二郎の、イタリアはカプローニとの幻想世界での邂逅など浮きまくっていたはずだ。

 今回は、作品に調和していた。

 また、マッチョ好きのホモの映画評論家気取りは、主人公の声をあてた庵野秀明(「ヱヴァ」の監督)のド素人のセリフの棒読み振りに不満を漏らしていたが、

 それも、昔からの宮崎監督の素人好きに由来しているから、「今さら・・・」である。

 宮崎監督の、声優による過剰な演出の部分突出よりも、小津安二郎が目指した「散文としてのセリフ」を重視した結果に過ぎない。

     

    ◇

 面倒だからちゃんと読んでないが、立花隆は、パンフレットに、かようなタイトルの一文を寄せている。

   「これは、明治以来西洋に追いつき追い越せで、急ごしらえに作った富国強兵国家日本が、
                        富国にも強兵にも失敗し、大破綻をきたした物語だ。」

 この見立ては、100% 間違いである。

 この作品は、「リザルト(結果)の良し悪し」の作品ではない、「プロセス(経過)の美しさ」を描いた作品なのである。

 「プロセス」とは、それは、うん、「青春」のことである。

 「坂の上の雲」を目指していた日本の「青春」を描いている。

 その結果は、全力を尽くした「結果」でしかない。

 「結果」は結果でしかなく、「青春の輝き」は色褪せない。

 作中、二郎の恋人・菜穂子は、結核に侵されながらも、二郎と結婚する。

 そして、しばらくして、二郎のもとを去り、結核患者の隔離病院に戻るのだ。

 なんで、そもそも、菜穂子は病院を抜け出してきたのか?

 それについては、二人の仲人をした奥さんが、「一番美しい自分を見せたかったのよ」と語っている。

 「一番美しい」とき、「青春の輝き」こそが、この作品の第一義であるのだ。

 そして、男は、それを失っても、生き続けなくてはならない。

   ◇

 書きたいことはまだまだある。

 風の凪いだときのない、この作品の動画としての凄さ、・・・主人公の喫煙シーンも、その煙が、風(空気の流動)を表わしているんだぜ。

 また、この作品の陽性部分を引き受けたイタリアはカプローニとの夢のシーン・・・。

 これは、もう一度くらい見てから、書こうと思う。

 最後に、エンディングに流れる歌のシンガー、荒井由実(現・松任谷由実)について、私が、最近 思ったことが、この作品のテーマと絡むので、転載して、終わる。

 ≪(2012/11/27)今、ラジオでは、ユーミンの40周年アルバム絡みで、ユーミンの曲がよく掛かる(私、このアルバム買ったよ!)。
  ベスト中のベストなので、名曲揃いだ。
  特に、何度も語っているが、『翳りゆく部屋』は、私の永遠のベストだ。
  この曲の、愛の喪失の虚無感・絶望感・・・、その、情景の美しさ、哲学への昇華は、何ものにも変え難い。
  だからこそ、最近の松任谷由実の歌声は、聴いてて辛かった。
  数ヶ月前の新曲を、やはりバイトをしながら聴いていて、私は、その「時の流れの残酷さ(エントロピーの不可逆性)」に、正直、涙がこぼれた・・・。≫

 それでも、男は、生き続けなくてはならない。

 夫の松任谷正隆は、今作への荒井由実の楽曲使用に際し、「若いころの由実が戻ってきたようだ」とか語っていたね。

 たまに、男にはご褒美がある。

 作品最後の、幻想世界で、カプローニが二郎に引き合わせた人物のように・・・。

                                         (2013/07/20)

Viewing all articles
Browse latest Browse all 3482

Trending Articles