☆・・・昔、私は空港の貨物地区の職員だったのだが、そこでの仕事に、なんかイマイチ乗れない点があった。
それは、私が、途中から「搬送」と言う部所に回されたからだ。
搬送と言うのは、飛行機から下ろされた荷物をフォークリフトで拾い、倉庫の中に蔵置する作業だった。
つまり、前作業には、飛行機から下ろすという、空港で働くには見た目 華のある作業(名前は忘れた)があり、後工程には、お客さんに荷物を引き渡すという「搬出」作業があった。
なんか、私の「搬送」作業は、貨物地区内をコチョコチョ動き回っているだけの、かたちのない、輪郭の定まらない作業に思えていた。
・・・戦争を紐解くと、日本軍の敗北の原因に、「兵站」を重要視していなかったという一つの原因が浮かびあがる。
「兵站」・・・戦場で後方に位置して、前線の部隊のために、軍需品・食糧・馬などの供給・補充や、後方連絡線の確保などを任務とする機関。その任務。
エリート幹部を育成し、エリートは、考えうる最高の作戦を立案し、現場に実行させようとする。
そして、最前線では、いぶし銀の兵士たちが大和魂で戦い続ける。
だが、現代の日本人には考えつかないような真摯さと愛国心のあるエリート上層部だったが、実際の戦争においては、少なからずの齟齬を現場と生じさせる。
頭の中では、全ての局面に最善を尽くさなくてはならないと考え、前線は途方もなく広がっていく。
そして、兵站距離はとめどもなく長くなっていった。
そもそも、よく揶揄されるが、日本軍は精神論を重視していた。
当初はそれが機能していたが、兵站ラインの延長に伴い、精神論だけでは乗り越えられない「物資の欠乏」に繋がった。
その兵站を疎かにされた状況は、私が、「搬送」作業を、なんかカッコ悪いと思っていたのと同根だ。
さて、人は新しいことを始めるときに、「大風呂敷」を広げたくなるものだ。
人は、自分の新規事業に、自分の多くの想いを託す。
それは、途方もなく戦線を広げていくことでもある。
だが、それをまっとうするには、綿密緻密なシミュレーションが必要だ。
私は、うちの店を開店させるにあたり、そのお店の営業の流れのフォーマットを、弟に一任していた。
弟は、業界の経験が長い、まあ、業界エリートだ。
うちの店の営業システムは、ほぼ完ぺきに出来ていて、それは、開業してからの4年半、まったく赤字がなく、まったく業務転換をしていないことでわかろう。
ただ、その弟でも、業界エリートであるがゆえに、たまにムチャ振りしてくる。
私は、それをさりげなくかわし、実行しない。
私の現場には、そぐわないだろうことは多々あるのだ。
かくして、うちの店は、最初から、その営業形態を変えていない。
変わっていると言えば、徐々に、プラス方向へのヴァージョンアップしていることぐらいだ。
1日15時間ぐらい営業、二人で働き、月に100万稼ぐのと、
1日5時間ぐらいの営業で、一人で頑張り、月に70万稼ぐの、どちらが効率がいいか言わずもがなだ。
もちろん、効率重視が仕事ではないが、効率重視を主張していて、非常に不合理な無駄をしている営業者は多い。
さて、・・・綿密なシミュレーションを行うことなく、見切り発車で新規事業をすると、絶対的に「機能不全」に陥る。
「夢」と「現実」の<つなぎ>の想像が全くできていないからだ。
<つなぎ>とは、ズバリ! 作業工程の「搬送」であり、そう「兵站」的なものなのである。
仕事のほとんどの失敗と言うものは、夢を追うための方法論の、どこかしらの段階を蔑ろにしていることにある。
うちの店は、最初から、破天荒なようでいて堅実に営業している。
それは、営業時間を変えない、なんていう基本的なことに顕著だ。
それが普通におこなえているのは、
例えば、自分の夢としてはやってみたい「24時間営業」などを、無謀に実行したりしないからだ。
メニューも、当初は最低限に絞っていたものだ。
多くの新規事業者は大風呂敷を広げてパンクする。
そして、慌てて方針転換し、周囲の失笑を買う。
私は、飲食業の全くの素人であったが、お店の営業時間を日替わりでコロッコロ変えたり、営業形態を節操なくコロッコロ変えたりする事業者が無様だと言うことは、よーく知っている。
よくもまあ、恥ずかしげもなく、などと思う。
だが、新規事業には失敗がつきものだ。
恥ずかしいけど、方針転換して、軌道修正をはかるのも大事なことだよ。
夢をかなえるには、コツコツと積み上げるしかないのである。
(2017/09/13)