「ルーム」本予告
☆・・・傑作ですね。
時節がら、そのようなテレビでの宣伝をされていないけど。
17歳で誘拐された少女が七年間の監禁生活の中で子供を宿し、その子が五歳になり物心がつく…、その時点で《監禁「ルーム」》からの脱出を決意し、そして、その経験を克服するまでを、凄まじく多くのテーマを内包して描いていた。
・・・主人公の踏みにじられた青春、望まぬ出産、だが、そこで誕生した子供こそが、生きるよすがになる。
子役の息子ジャックは、生まれながら、その「部屋」の中の「世界」しか知らない。
その生活。
細かい事象が積み重ねられて語られる。
そして、想像力が貧困な鑑賞客には理解が得られないような突飛な脱出方法、そのサスペンス。
犬を散歩していた男に助けられ、女の勘の洞察が利いた警察官に保護される、天の配剤。
両親は離婚していて、主人公ジョイの父親は、犯人の血が半分混じっているジャックを直視できない。
そう、それまでの二人の「部屋(世界)」では、ジョイは「ママ」でしかなかったが、ここで名前が立ち現われる。
ジョイの母親は、ジョイとジャックを受け入れる、が、再婚相手もいる。
再婚相手は好人物だが、自分の不遇の間に恋愛していた母親に、解放後のフラッシュバックや周囲(社会)との齟齬に言い知れぬ不満を爆発もさせる。
ジャックも、自分の周囲から流れてくる膨大な情報量に溺れそうだったので、やや内に籠もる。
ジョイは、テレビの取材も受ける。
だが、そこでの、プロのインタビューアーであったら当然にせざるを得ないだろう質問を受け、悩み、自殺未遂に至る。
ジョイは入院し、ジャックは母親と引き離される。
そこでジャックは、寂しさを感じつつも、子供の心の柔軟性で飛躍的に社会とのコミュニケーションを得ていく。
そんな息子の姿を見て、ジョイも安心を得て、ジョイ自身も回復していく。
だが、ふたりでハンモックで微睡んでいると、ジャックが「《部屋》に戻ろうよ」と言うのだ。「いや、ちょっとだけだよ」
かくして、ふたりは《部屋》に戻る。
「あれ、《部屋》ってこんなに小さかったんだ」
ジャックは意外そうに呟くと、かつての自分の《世界》を構成していた一員たちに別れを告げるのだった。
ジョイも、そのあまりにも小さい《部屋》を見て、恐怖の対象であった存在のあまりにもの矮小さを思い、「バイ…」と部屋に声なく告げるのだった。
ジャックはもちろん、ジョイも、過酷なる経験から立ち直るのだろう。
(2016/04/15)