☆・・・良作でした。
主人公は、役所の閑職、民生課の一部所、身寄りのない死者の葬儀・埋葬をするたった一人の職員。
冴えなくも、生真面目に、一人一人の死者の調査をし、丁寧な弔いを行なっている。
調査で知った死者の弔辞を読み、その死者にあった音楽を選んだりもする。
一つの事例に時間を掛けるので、弔いが間に合わず、安置所には遺骨が溜まっている。
イギリスも、火葬が普通にあるんだね(作中では、身寄りのない者の安価な葬儀として火葬があるようだ。土葬の描写もある)。
その生活も質素で、アパートメントの一室で、毎日決まった食事をし、家具も一糸乱れぬ配置で過ごす。
そんなおり、二つの「意外」が起こる。
隣接するアパートの向かいの一室から、身寄りなき死者が出る。
時を同じくして、役所の人員整理のため、主人公は解雇を言い渡される。
主人公は、最後の案件として、マイペースだが、期して最後の弔いの調査に動く。
これは、ハードボイルドの話として、私は見た。
そこかしこに、その要素がある。
社会から隔絶した主人公が、同じく身寄りのない社会から隔絶された孤独死の者の調査をする。
足を使い、ロンドン近郊を歩いて回る。
ひょんなことから、新たな手掛かりを得て、新たな人間関係を知る。
主人公は寡黙で、たびたび、その仕事の意義を疑われる。
女・「変わった仕事をしているのね?」
主人公・「好きでやってます」
上司・「弔いは死者のためではないよ、残された者のためにある。だから、身寄りのない死者への丁寧な弔いは不要だ」
主人公・「私はそう思ったことは一度もない」
唯一の楽しみは、これまで弔った者の写真を一枚だけ貰い受け、それをアルバムに貼り、ときおり、その死者のことを思い出すのだ。
ある意味、異常な行動に思えて、主人公の真摯な生き方が、私たちにそう思わせない。
先ほどの上司のセリフ(「弔いは死者のためではないよ、残された者のためにある。だから、身寄りのない死者への丁寧な弔いは不要だ」)だが、やっぱ、そのクールさに、かなり引っかかる。
私は、葬儀は、死者のためだけではなく、残った者のためでもある、という解釈だが、この上司の主張では本末転倒の意味合いを為している。
そして、エンディングだが、二つの奇跡が起こる。
それについては、皆さんに心を揺り動かして貰いたいので記さないでおくが、少なくとも、上司のセリフは粉砕されることになる。
私は、この作品では泣かなかった。
主人公は幸せに生きるからだ。
序盤では、この主人公の名前は出てこない(名無しのオプ)、最後の案件が立ち表われたころから、主人公は社会の中の一員の如く、名前を呼ばれ始める。
年中、死者を相手に仕事をしているせいか、物語の終盤まで、死者のような生気のない顔だ。
動きも整然としている、が、やはり、最後の案件から、走る姿も見せるし、次第に顔に赤みを帯びていく。
・・・優れた作品である。
(2014/06/27)