☆静謐の良作だった。
藤沢周平原作で、物語は至ってシンプル、脱藩した義理の弟・佐久間を討つ上意を受けた主人公が、藤沢作品ではお馴染みの海坂藩から江戸へと向かう一種のロードムービー時代劇。
藤沢周平作品は、司馬遼太郎作品の歴史を揺るがす大事件を描くスケールと違い、当時の確固たる社会の中での一つの事件を扱うことが多いので、その雰囲気を楽しめば良い。
でも、主人公の戌井朔之助(ひがし)は超硬派で、ロードムービーの持つマッタリ感はない。
義理の弟には、幼い頃から勝気な妹が付き添っていて、主人公にも、妹と心を通わしていた従者が付き添うことになる。
このようなシンプルな話は、細部の描写が命であるが、
この時代の常識やシステム、武士道に沿った侍たち、丁寧な主従関係がきっちりと描写されている。
道中、小川で口をゆすぐ朔之助に奉公人・新蔵(勝地涼)が手拭いを渡す、朔之助は口元を手拭いで隠しつつ、口の中の水を吐き出す。
旅籠の女中は、部屋で食事をする朔之助や新蔵の給仕に付き添う、椀を空けた新蔵に、女中はおかわりを問う、新蔵は朔之助の許可を受けてからよそって貰うのだった。
実にリアルな描写だった。
藩内の上下関係は厳然と守られ、家族間でも厳守されつつ、そこは情の通い合いで、親族の追討を命ぜられた朔之助に不満をもらす母親の存在が許されるのも家庭内だからである。
先日見た『アイ・アム・ナンバー4』と同じく、世界の日常が丹念に描かれ、物語の大きな起伏はクライマックスまで待たねばならない。
しかし、ストイックな展開を経てきた後なので、クライマックスの盛り上がりはピカイチである。
回想の中にあった佐久間との剣術御前試合のシーンも力が入っていたが、クライマックスのタイマン勝負も緊張感が漲った。
そこには、決闘の必勝法も、自分の技も語られることはない。
しかし、雨天中止の、三本勝負一対一で終わった勝負へのこだわりが、朔之助の道中での所作に表われている。
朔之助を演じる東山紀之は、クールで優しい役を見事に演じていた。
もう、今後、「必殺」シリーズも、この人に任せられよう^^
髷を結った姿がこんなに似合う役者も珍しい。
ただ、この作品、惜しむらくは、主人公の妹・田鶴を演じた菊地凛子の容貌がキッツイことだ。
「ダダ星人」こと前田敦子と姉妹と言っても過言ではなかろう。
その負けず嫌いの性格付けや、子役時代を演じた娘が菊地凛子にそっくりだったことも含めて考えると、物語的には非常に現実的なのであるが、
作品構成を考えると、ここは正統派美女を配すべきだったと思う。
自分の夫が討たれたことで、実の兄に刀を振るい、同じ流派とのことだが、その剣捌きが兄とは異質であるとこなど、なかなか良かったのだが、時代劇にはそぐわない顔だな。
でも、エンディングの、登場人物の役割の無駄のなさが、シェイクスピア劇みたいで、非常に爽やかであった。
(2011/07/10)
藤沢周平原作で、物語は至ってシンプル、脱藩した義理の弟・佐久間を討つ上意を受けた主人公が、藤沢作品ではお馴染みの海坂藩から江戸へと向かう一種のロードムービー時代劇。
藤沢周平作品は、司馬遼太郎作品の歴史を揺るがす大事件を描くスケールと違い、当時の確固たる社会の中での一つの事件を扱うことが多いので、その雰囲気を楽しめば良い。
でも、主人公の戌井朔之助(ひがし)は超硬派で、ロードムービーの持つマッタリ感はない。
義理の弟には、幼い頃から勝気な妹が付き添っていて、主人公にも、妹と心を通わしていた従者が付き添うことになる。
このようなシンプルな話は、細部の描写が命であるが、
この時代の常識やシステム、武士道に沿った侍たち、丁寧な主従関係がきっちりと描写されている。
道中、小川で口をゆすぐ朔之助に奉公人・新蔵(勝地涼)が手拭いを渡す、朔之助は口元を手拭いで隠しつつ、口の中の水を吐き出す。
旅籠の女中は、部屋で食事をする朔之助や新蔵の給仕に付き添う、椀を空けた新蔵に、女中はおかわりを問う、新蔵は朔之助の許可を受けてからよそって貰うのだった。
実にリアルな描写だった。
藩内の上下関係は厳然と守られ、家族間でも厳守されつつ、そこは情の通い合いで、親族の追討を命ぜられた朔之助に不満をもらす母親の存在が許されるのも家庭内だからである。
先日見た『アイ・アム・ナンバー4』と同じく、世界の日常が丹念に描かれ、物語の大きな起伏はクライマックスまで待たねばならない。
しかし、ストイックな展開を経てきた後なので、クライマックスの盛り上がりはピカイチである。
回想の中にあった佐久間との剣術御前試合のシーンも力が入っていたが、クライマックスのタイマン勝負も緊張感が漲った。
そこには、決闘の必勝法も、自分の技も語られることはない。
しかし、雨天中止の、三本勝負一対一で終わった勝負へのこだわりが、朔之助の道中での所作に表われている。
朔之助を演じる東山紀之は、クールで優しい役を見事に演じていた。
もう、今後、「必殺」シリーズも、この人に任せられよう^^
髷を結った姿がこんなに似合う役者も珍しい。
ただ、この作品、惜しむらくは、主人公の妹・田鶴を演じた菊地凛子の容貌がキッツイことだ。
「ダダ星人」こと前田敦子と姉妹と言っても過言ではなかろう。
その負けず嫌いの性格付けや、子役時代を演じた娘が菊地凛子にそっくりだったことも含めて考えると、物語的には非常に現実的なのであるが、
作品構成を考えると、ここは正統派美女を配すべきだったと思う。
自分の夫が討たれたことで、実の兄に刀を振るい、同じ流派とのことだが、その剣捌きが兄とは異質であるとこなど、なかなか良かったのだが、時代劇にはそぐわない顔だな。
でも、エンディングの、登場人物の役割の無駄のなさが、シェイクスピア劇みたいで、非常に爽やかであった。
(2011/07/10)